馴化(じゅんか)とは、簡単に言えば「何かに慣れてしまうこと」です。
例えば、どこかへ旅行して見たことのない風景や食べ物を楽しんだことがあるでしょう。
地元の料理は最初は珍しくて、特に美味しいと感じるかもしれません。
ところが毎日毎食、同じものが出てくるとそのうち飽きてしまって欲しいと思わなくなりますよね。
このような好みの変化のことを、「味覚が馴化」したというように表現するわけです。
繰り返しによって感覚に慣れてしまい、最初は感じていた刺激を感じなくなるようになること。
この馴化という人間の反応は、心理学の用語としてもとても重要な意味を持っていることをご存知でしょうか。
この記事では、心理学の用語としての馴化の意味と、その具体的な例を説明しますので、参考にしてみてくださいね。
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馴化とは何か?心理学用語の意味を解説!
上にも書きましたが、馴化(じゅんか)とは何かに慣れてしまうことです。
これは人間だけではなく、全ての動物がもつ心理的な現象で、同じような刺激が続くとその刺激に対する反応が次第に弱くなって、やがては反応しなくなります。
生物にとっては刺激が変化しないものは「危険性が少ないもの」と判断できるものです。
そのため、その刺激に対してはことさらに注意し続けないことは脳の合理的な判断ということができます。
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馴化と定位反応
馴化は、「定位反応(ていいはんのう)」とも密接な関係を持っていることを知っておきましょう。
何か自分の知らないこと、分からないことに出会ったときにそれが何かを知ろうとしますが、このような動きのことを定位反応と呼ぶのです。
何かの刺激が与えられたとき、まず外部の変化に対して定位反応を示し、その同じ刺激が繰り返し与えられるとやがてそれに反応しなくなって馴化する、という手順をとるのです。
定位反応と馴化の関係
- ①人はまず、定位反応によって新しい刺激に反応する
- ②新しい刺激の回数を重ねていくと、今度は馴化という反応が現れる
行ったことのない町に行ったときに、その町を歩いてみたくなったり、町全部を一望できる高い場所に上ってみたくなったりするでしょう。
入ったことのないお店にとりあえず足を踏み入れてみたくなったり、大きな音がするほうをつい見てしまったりするのもそうです。
定位反応と馴化は、人間が環境に適応していくときの反応の在り方として理解しておくと良いでしょう。
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脱馴化とは
上でも見てきたように、馴化は、ある刺激が長時間にわたって繰り返し与えられることで、その刺激に対して鈍感になってしまうことでした。
このように刺激に対して馴化してしまった後で、それとは違う刺激が与えられた場合に、新たな刺激によって馴化した元の刺激への鈍感さが消えてしまうことがあります。
このように馴化した刺激が別の刺激によって打ち消されることを「脱馴化」といいます。
馴化して気にしなくなった刺激が、別の刺激を受けることで再び新しい刺激としてよみがえってくるわけですね。
いったん馴化した刺激が、別の刺激によって打ち消され、再び新しい刺激としてよみがえること
電車に乗っていてその振動や騒音に馴化して眠くなってしまった場合でも、電車が急ブレーキをかけて振動や騒音が変わると、はっと目が覚めることがありますよね。
そのあとにはまた、電車の振動や騒音が体への刺激として知覚されるようになります。
これは脱馴化の一つの例ということができます。
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馴化と逆馴化
馴化が起こるときに、その与えられる刺激が変化すると馴化が起こらず、刺激に対して敏感なままで反応し続けることが知られています。
この反応を「逆馴化」と言います。
同じような振動でもその強さやタイミングがしょっちゅう変化していると、その刺激に成れることがなく、ずっと新鮮な振動として受け止め続けるのです。
でこぼこ道を車で走っているような状態では、体の揺れ方に一定のリズムがなく、揺れ幅もまちまちなので、刺激になれることができません。
馴化しないので眠くはなりませんが、ずっと振動を感じ続けているのでやがて感覚が疲れてきて不快になってしまいます。
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鋭敏化との違い
馴化と同じように一つの刺激が繰り返し与えられたときに、その刺激に馴化せずに、かえってその刺激に対して敏感に反応するようになることがあります。
特に強い刺激を受け続けると、その後で同じ刺激を弱い程度で受けたときにも激しく反応することがあるのです。
これを「鋭敏化」と言います。
痛みを覚えるような強い力で打たれた続けた後には、触られただけでびくっとしたりします。
人がとても小さい声で話している場合でも、自分の名前が出れば聞き取ることができますね。
大勢の人が話している中でも恋人の声は聞き取れたりするのも鋭敏化の例といえます。
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馴化の具体例と使い方
馴化は人間以外の動物にも見られますし、植物にも起こります。
人間の場合は音や振動のような物理的な刺激だけではなく、心理的な刺激に対しても起こるのです。
以下では、馴化が起こる具体的な事例を見てみましょう。
馴化の例①:企業の不祥事
最近多発している企業の不祥事について考えて見ましょう。
例えば製品の検査工程をいい加減にしていたり、規則に違反するような報告の仕方をしているのは、不祥事が起こったときにたまたま起こったのではないでしょう。
不祥事が起こる以前からずっと、そのやってはいけないことは続いていたのです。
本来ならば内部の人が気がついてやめるべきだったのですが、その状況に鈍感になってしまったため、それはいけないことだということに気がつかなくなってしまいました。
トラブルが起こることは予測できたのに、その状況に馴化してしまったのです。
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馴化の例②:夏バテ
夏バテになるのは夏の前半の方ですよね。
これは、夏バテになるのは、夏の暑さに体がなれないためです。
冷房の効いた室内の環境に馴化してしまい、本来ならば行われるべき暑さに対する馴化がうまくいっていないことによるものです。
体にはこの気候馴化の仕組みがそもそも備わっています。
体を夏の暑さに対して自然に調節するようにしてあげることで、夏ばてを防ぐことができますよね。
まだあまり暑くならないうちに、ウォーキングや軽い運動をすることで、汗をだしてやると本格的に熱くなったころには体が自然に発汗して体を暑さに馴化させてくれます。
馴化の例③:いじめ
学校で起こる「いじめ」も、企業の不祥事をおなじ作用が見られる問題です。
いじめられている生徒の姿はいつも目の前にあるのに、見慣れすぎているのでそれが問題であることに気がつかなくなってしまうのです。
違う場所で知らない人が同じようにされていれば、いじめられていることに気がつく場合でも、自分がいつもいる学校の中では馴化されてしまう。
いじめを受けている本人は刺激に対して鋭敏化していることが多いので、この状況は非常に不幸な結末を生むことになりかねません。
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馴化の仕組み
馴化は、同じ刺激が何度も繰り返される場合に起こります。
例えば電車の中で座席に座っているとき、電車の振動や騒音が一定の間隔で何度も体を揺らし、耳に入ります。
振動も騒音も不快なはずなのですが、ずっと電車の座席に座っていると眠くなってしまいますね。
これは電車の刺激に馴化したために、その刺激に慣れてしまって気持ちが落ちついてしまうために眠気を催すのです。
どんな刺激が馴化しやすいか
馴化は、強い刺激よりも弱い刺激が繰り返し与えられる方が起こりやすくなります。
同様に単純な刺激の方が馴化しやすく、いくつもの刺激が複合しているような複雑な刺激は馴化しにくい状態といえます。
単調で弱い刺激が繰り返し起こっている状態では、体はその刺激に対して特に注意しなくなるということです。
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似た刺激に馴化する場合
馴化は特定の刺激が繰り返し起こることで発生しますが、馴化した刺激と似たような刺激に対しては、馴化が転移することがあります。
一旦ある刺激に馴化したあとで、違うけれどよく似ている刺激が与えられると、元の刺激と同じように鈍感になってしまうのです。
このような状態を刺激が「般化」した、といいます。
太鼓の音に最初はびっくりした人も、その音を聞きなれてしまえば気にならなくなります。
その後で別の打楽器の音を聞いても驚かなくなるのは、太鼓の音の刺激への馴化が般化されたのです。
馴化を弱めるには
馴化した経験は時間が過ぎると薄れていきます。
一度ある刺激に慣れてしまった後でも、その刺激を長い間与えられないでいるとその刺激への鈍感さは弱まっていくのですね。
ある料理が美味しいと思って食べ続け、あんまり食べ過ぎてもう美味しいと思わなくなったあとでも、数ヶ月たってから口にすると美味しいと感じることがあります。
これは時間を置くことによって味覚の馴化が弱まったのです。
昔、聞き飽きた音楽を久しぶりに聞いたらやっぱりいいなと思ったり、別れた恋人同士が何年かぶりに出会って再び惹かれあってしまったりするのも、よくあることです。
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まとめ
今回は、刺激に慣れてしまうことでその刺激に対する反応が弱くなってしまう現象、「馴化」について説明しました。
生物が周りの環境に慣れて、危険のないものに注意を払わなくなることは、生きていくために何に注意するべきかを判断する上で重要なことです。
しかしながら、もともとは危険なものの危険性に気がつかずに馴化してしまうと、後々に大変なことになることもあります。
人間の心の働き方に注意して、馴化の働きを上手に使ってくださいね。
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