「怒りの葡萄」は、スタインベックによって書かれた社会派小説です。
映画化もされている名作ですが、解釈が難しいことでも定評のある作品ですから、「読んでみたいけど、なかなか手を出せない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「怒りの葡萄」の作品のあらすじや名言について簡単にわかりやすく紹介します。
スタインベックのその他の名作についても紹介していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
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「怒りの葡萄」のあらすじ
「怒りの葡萄」は、仕事を失い、収入をを失った農民一家が新天地を求めて旅する物語です。
1930年代、アメリカのオクラホマではダストボウルという砂嵐によって土地が荒らされ、農民たちは土地を耕せなくなっていました。
殺人罪で4年間服役し、釈放された主人公のトム・ジョードの一家も例外ではありません。
「カリフォルニアには、仕事がある」という噂を聞いたジョード一家は家財道具を売り払い、おんぼろトラックでカリフォルニアに向かいます。
しかし、険しい旅路に耐え切れず、祖父母は旅の途中に亡くなりました。
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カリフォルニアにたどり着いた一家を待っていたもの
どうにかしてカリフォルニアにたどり着いたジョード一家ですが、実際のカリフォルニアは期待していたものとは違いました。
ジョード一家と同じように、仕事を求めてやってきた農民たちであふれかえり、労働力過剰となっていたのです。
ジョード一家は、仕方なく安い賃金で食いつなぎます。
ストライキと悲劇
ある日、一家と行動を共にしていた元牧師のケーシーが労働者たちを率いてストライキを計画しますが、仕事場の警備員に撲殺されます。
怒ったトムは警備員を殺害し、ジョード一家は仕事場を脱出しました。
トムは、家族に迷惑をかけまいと一家を去ります。
トムがいなくなったジョード一家を大雨と洪水が襲い、一家は一軒の小屋に逃げ込みました。
その小屋の中にはある男がいたのですが…。
「怒りの葡萄」の登場人物
「怒りの葡萄」には次のような人物が登場します。
「怒りの葡萄」登場人物
- トム・ジョード・ジュニア:主人公。殺人罪で4年間服役していた。
- ママ・ジョード:トムの母で、名前は明らかになっていない。一家のまとめ役で、何よりも家族が一緒にいることを望んでいる。
- パパ・ジョード:トムの父。農園をとても大事にしていた。
- ジム・ケーシー:元牧師。ジョード一家と行動を共にする。
- ローザ・シャーン:トムの妹でコニーの妻で妊娠している。ローズ・オブ・シャロンとも呼ばれている。
- コニー・リバース:ローザシャーンの夫。カリフォルニアまでの過酷な旅路に嫌気がさしている。
- アル・ジョード:トムの弟。トムのことを尊敬している。修理工になるという夢がある。
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「怒りの葡萄」の解説(※ネタバレあり)
この作品は、実はキリスト教の聖書をもとにしている物語です。
ジョード一家がオクラホマからカリフォルニアを目指して旅するのは、旧約聖書の出エジプト (ヘブライ人が預言者・モーセに率いられ、エジプトの支配から脱出し、約束の地・カナンを目指して旅したこと) がモチーフです。
それは、カリフォルニアのことを「乳と蜜の流れる土地 (聖書ではカナンを意味します)」と表現していることからも分かります。
タイトルの「怒りの葡萄」も聖書がルーツ
タイトルの「怒りの葡萄」も聖書がルーツだと考えられています。
聖書で葡萄は、神の怒りで踏み潰される人間のことを指します。
葡萄酒を作るには、葡萄を踏み潰さなければいけませんが、それを聖書にならって人間に例えたのです。
踏み潰された人間の怒りが「怒りの葡萄」なのです。
ちなみに、ジョード一家はオクラホマで葡萄農園を営んでいました。
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ラストシーンの解説
ラストは、大雨と洪水によって死産したトムの妹・ローシャザーンが死にかけの男に母乳をやるところで終わります。
大雨と洪水は、聖書のノアの箱舟が代表するように、神の怒りの象徴です。
小屋に逃げ込んだジョード一家は死にかけの男と出会いますが、彼が死にかけた理由は、自分の息子に優先して食べ物をやった結果、十分に栄養がとれなかったからです。
その男に子どもを失ったばかりのローシャザーンが母乳をやるということは、生命の循環性を意味しています。
ひとつの小さな生命は失われるけれど、それは巡りめぐって新しい生命を生み出す糧となるのです。
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「怒りの葡萄」の名言・印象に残る言葉を紹介!
「怒りの葡萄」の見どころは、登場人物たちの発する印象的なセリフです。
短い言葉で当時の社会や自分の思いを的確に話し、読者を考えさせます。
ここでは、「怒りの葡萄」の名言を3つ紹介します。
お前は働かなくちゃいけないんだよ。
テントの中に座っていると、自分で自分が愛おしくなってくるから。
逃亡したコニーを想って悲しんでいるローザシャーンに、ママ・ジョードが放ったセリフです。
何もしないと悲しくなる、だから働け。
働くことによって全てを忘れることができるし、貧乏な自分たちは働くことしかできない、という意味ですね。
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罪などありゃしねえし、徳なんかどこにもねえ。
あるのは人間どものやるくだらねえことだけだ。
そして、人間のやることにゃあ、いいこともあるし、よくねえこともあるが、人間にゃあ、ただそれしか言う権利はねえんだ。
元牧師のケーシーが独白するシーンのセリフです。
牧師時代、ケーシーは追い詰められると女性と関係を持っていました。
そのことに対する罪悪感について、自分の考えを叫ぶように言います。
誰にも葛藤はあるし、神でもないのに罪を裁く権利もないということですね。
なぜって、あの男のもっているちっぽけな魂のかけらは、残りのものと一緒になって、完全に一つにものにならねえ限りは、なんの役にもたちゃしねえからよ。
トムが家族の元を去る際にママ・ジョードに言ったセリフです。
ケーシーが過去に言っていたことがやっと分かった、とトムは話します。
1人はちっぽけで未完成な存在ですが、集団になることによって個にはない「強さ」を手に入れられると言っています。
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作者=ジョン・スタインベックの評価
若いころ、農園や砂糖工場で働いた経験を持つスタインベックは、農民や移民のつらさを身に染みて理解していました。
スタインベックは、著作の多くで労働問題を取り上げ、商業主義を批判しました。
そのため、世間の評価は賛否両論で必ずしもよくありませんでした。
しかし、作品は評価され、「怒りの葡萄」でピューリッツァー賞と全米図書館賞を受賞、後にノーベル文学賞を受賞します。
今まで取り上げられなかった貧民層を取り上げ、労働問題に切り込んだ姿勢は高く評価されています。
ジョン・スタインべックの生涯
スタインベックは、1902年にカリフォルニアでドイツ系移民の息子として生まれました。
青年時代は農園や砂糖工場で働き、労働者の厳しい状況を知ります。
小説家になることを決意し、1935年「トーティヤ台地」でデビューします。
その後、「ハツカネズミと人間」「怒りの葡萄」「エデンの東」と当時の社会に疑問を投げかけた作品を発表しました。
晩年にはノーベル文学賞を受賞し、1968年に66才で死去しました。
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ジョン・スタインベックのその他の作品
最後にジョン・スタインベックの作品をいくつか紹介しましょう。
いずれも名作とされている作品ばかりなので、一読の価値ありです。
「ハツカネズミと人間」:大恐慌時代の労働者の厳しい現実を描く
大恐慌時代、労働者の厳しい現実を描きます。
小柄ですが頭の回転が速いジョージと大柄ですが子ども並の知能しかないレニーは、「いつか自分たちの農場を持つ」という夢があります。
さまざまな人間と出会い、2人は労働を続けます。
ある日、金持ちの老人に農場を開く資金を出してもらうことに成功し、夢を叶えられるかと思った矢先、2人に悲劇が訪れます。
「エデンの東」:父と子の “愛” の物語
旧約聖書の「カインとアベル」をモチーフに親子の絆を描きます。
20世紀のカリフォルニア、移民のトラスク家の次男・キャルは、父から嫌われていると思っています。
何とかして父に認められようと、商売で儲けるなど色々なことをします。
しかし、なかなか上手くいかず、葛藤しますが、父も父で思うことがあってのことでした。
親子間の反発、葛藤、愛憎を描いた作品です。
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まとめ
今回は、スタインベックの「怒りの葡萄」について紹介しました。
この物語は、聖書がベースになっているので、そちらも読んでから再度読むと、違った見方ができるかもしれません。
「怒りの葡萄」について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
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