古典的条件付けとは、もともとは刺激に対して何の反応も示していなかった人を、特定の刺激に対して反応が起きるように学習させることを言います。
古典的条件付けとは?
- もともとはある刺激に対して何の反応もしていなかった人を、
- その刺激に対して反射的に反応するように学習させること
行動療法においては、古典的条件付けを利用して治療(学習者の反応を変化させる)が行われることがあります。
古典的条件付けを応用すれば、人の問題行動を矯正することが可能になるのです。
この記事では、古典的条件付けのさまざまな事例について簡単にわかりやすく解説しますので、参考にしてみてください。
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古典的条件付けの意味とは?
古典的条件付けとは何か?を理解するために以下のような実験をしてみましょう。
例えば、いま「梅ぼし」を頭の中で想像してみてください。
実際に食べたわけでもないのに、だんだんと口の中によだれが出てきませんか?
これは、あなたが「過去に梅干しを食べた」という経験があるからこそ生じる反応です。
誰かに「〜をイメージしてみて」といわれただけで、「よだれがでる」という生理的な反応が生じるのは、本来はおかしいですよね。
実際、梅干しを食べたことがない外国人に対して「梅干しをイメージしてみて」と言っても、「よだれが出る」という反応は生じないでしょう。
一方で、この外国人に1度梅干しを食べてもらったとします。
その後は「梅干しをイメージしてみて」ということで「よだれを出させる」という反応を引き出せるようになるでしょう。
このように、「相手に対してなんらかの経験をさせることによって、相手の反応を変化させること」を、古典的条件付けと呼んでいるのです。
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古典的条件づけの例「パブロフの犬」実験
「パブロフの犬」は、ロシアの心理学者イワン・パブロフによる有名な実験の例です。
これは、古典的条件付けを最初に発見した実験と言われています。
犬は食べ物を食べるときには唾液を出しますね。
一方で、「ベルを鳴らす」という刺激はもともとは犬にとって食べ物とは何の関係もない刺激のはずです。
この犬に食べ物を与えるときに「ベルを鳴らす」というまったく関係のない刺激を与えるとします。
これを何度か繰り返していると、犬は「ベルが鳴る」という、本来は食べ物とまったく関係のない刺激で、よだれをたらすという反応を示すようになります。
最初は「ベルが鳴る」という刺激に対して何の反応もしていなかった犬を、「ベルが鳴るとよだれをたらすという反応をする犬」に変化させることができたというわけです。
古典的条件付けの「消去」
この状況で、次に「ベルを鳴らすけど、食べ物はあげない」ということを何度か繰り返したとします。
最初のうちはベルが鳴るたびによだれを出していましたが、「ベルはなったけど食べ物はもらえない」という経験をすることによって、犬はベルが鳴っても唾液を出さないようになります。
この反応を「消去」と呼んでいます。
学習によって獲得した「ベルが鳴るたびによだれを出す」という反応を、その後の別内容の学習によって消去することができたというわけです。
古典的条件付けの「自発的回復」
さらに、いったん「消去」をした数日後に、また「ベルが鳴ったら食べ物を与える」という刺激を与えたとします。
これによって、再び犬は「ベルが鳴ったら唾液を出す」という反応をするようになります。
このように、いったん消去された反応が、また復活することを「自発的回復」と呼んでいます。
刺激を与えることによって、反応を消去したり、自発的回復をさせたりすることができたことを発見したこの実験を「パブロフの犬」とか「パブロフ型条件付け」と呼んでいるわけです。
これを人間に応用することができれば、人間の望ましくない行動を外部からの刺激によって矯正することができることを発見したことが、パブロフの実験の功績といえるでしょう。
↓こうしたことがわかったことで、古典的条件付けは、恋愛や教育でも応用されるようになりました。
古典的条件付けが成立するための条件
このように、古典的条件付けとは、人間や動物の反応を「もともとは何の関係もなかった刺激」によって起こすように学習させることをいいます。
このような古典的条件付けが成立するためには、いくつか条件があります。
上で見た「梅干し」の例をもとに、古典的条件付けを成立させるための条件をくわしく見ておきましょう。
↓古典的条件付けは、以下のような条件がそろったときに生じる反応といえます。
要素の名前 | 要素の説明 | 具体例 |
---|---|---|
無条件反射 | 人間の自然な反応 | 酸っぱいものをイメージすると唾液が出る |
無条件刺激 | 無条件反射を引き起こす刺激 | 梅干しを食べてもらう(唾液が出る) |
中性刺激 | 本来は人間が何も反応しないはずの刺激 | 梅干しを食べたことがない人に「梅干しを想像してみて」と伝える |
条件刺激 | 条件付けをされた後の刺激のこと | 梅干しを食べてもらった人に「梅干しを想像してみて」と伝える |
条件反射 | 条件付けをされたことによって引き起こされるようになった反応 | 梅干しを食べたことがある人に「梅干しを想像してみて」と伝えると、唾液を出す |
↓まとめると、以下のように学習をさせることを古典的条件付けいうわけです。
古典的条件付けとは(まとめ)
- 「中世刺激」の状態だった相手に対して、
- 「無条件刺激」を経験してもらうことにより、
- 「無条件反射」が生じる状態になってもらい、
- 「無条件刺激」を与えて、
- 「条件反射」が起きるという状態を作り出す
古典的条件付けは、最終的に相手に「条件反射」を起こさせるための学習と考えることができますね。
古典的条件付けの2つの特徴
↓古典的条件付けには次の2つの特徴があります。
古典的条件付けの2つの特徴
- ①不随意な反応であること
- ②条件付けは行動の前に起きるものであること
以下で順番に説明しましょう。
①不随意な反応であること
これは、私達の意思とは関係なく起きてしまうということです。
わざとではなくても、酸っぱいものを食べれば勝手によだれが出てしまいますよね。
よだれが出る理由が学習によって「酸っぱいものを想像する」に変わっても、よだれが勝手に出てしまうことは変わりません。
なので不随意な反応、と呼ばれています。
②条件付けは行動の前に起きるものであること
古典的条件付けは、あらかじめ「学習」することで条件付けがされ、条件反射は起きるようになります。
この場合の行動というのは餌を食べるという条件刺激のことですね。
行動の後の「褒美と罰」で条件付けをする別な条件付けもあって、それが後述するオペラント条件付けです。
古典的条件付けの「強化」と「消去」の方法
条件付けと条件反射のことはわかっていただけたと思います。
では、この条件付けはいつまで続くのでしょう?
また、一度つけてしまった条件はもう消えることはないのでしょうか?
以下では古典的条件付けの「強化」や「消去」の具体的な方法について説明いたします。
条件付けを強化する方法
条件付けを強めるのは簡単で、条件付けを繰り返せば良いのです。
パブロフの犬で言えば、ずっと餌を上げる前にベルを鳴らすことを続けることですね。
毎日、毎食やることでより強い反応を示すようになります。
たくさんよだれが出るということですね。
条件付けを消去する方法
では逆に消すためにはどうすればいいと思いますか?
パブロフの犬を例に考えてみてください。
無意味にベルを鳴らしまくればいいのです。
犬はベルが鳴っても餌が来るわけではないのだと新しく学習します。
するとよだれも自然と出なくなるのです。
自発的回復について
無意味にベルを鳴らしまくり、犬はベルの音でよだれを出さなくなりました。
ところが次の日はベルを鳴らしてから餌を出します。
するとどうなるでしょう?
条件反射は復活し、犬は再びベルの音でよだれを出すようになります。
これを自発的回復と呼びます。
条件付けを消して、自発的回復をさせて、また消して……を毎日繰り返してみたとします。
すると犬は「よだれは出るものの、あまり出ない」状態になり、最終的にはまったくよだれを出る反応はしなくなります。
反応がだんだんと弱くなり、最終的には消滅します。
このように「反応を消す手法」は、高所恐怖症や先端恐怖症のような恐怖症の治療や、トラウマなどの治療に応用されます。
これを行動療法と言います。
再獲得
これは、一度忘れた条件反射をもう一度学習させることを、再獲得と呼びます。
再獲得によって古典的条件付けを習得させるときには、以前よりも学習速度が早くなるという点が重要です。
勉強でも1回やって理解したことなら忘れてもすぐにもう一度習得できたりしますよね。
でも勉強は頭で考えてすることですが、条件反射はよだれが出るような、体が勝手に行う基本的で生得的な反応です。
そう考えると、ちょっと面白いなと思いませんか?
外制止
ベルを鳴らすと同時に、もしくは直前に、手を叩いてみましょう。
反応が弱くなります(よだれがあまり出なくなる)
このように、条件刺激に別な刺激をプラスすると反応が鈍ってしまうことを、外制止と呼びます。
古典的条件付けの活用方法(恋愛・教育)
イワン・パブロフが「パブロフの犬の実験」を行なったのは1900年代です。
それから100年以上が経っているわけですが、その間に古典的条件付けはいろんな場面で使われるようになりました。
具体的には、恋愛や教育といった人間の心理が密接に関係する状況において、古典的条件付けが活用されることがあります。
以下では、古典的条件付けの応用例をいくつか紹介しましょう。
古典的条件付けの例①:恋愛テクニック
好きな人と仲良くなるには美味しいご飯を食べると効果的です。
美味しいご飯を食べると幸せになりますよね。
そのご飯を食べる前には二人で会話をしますよね。
二人の会話を条件刺激にしてしまおう、ということです。
食事をするとよだれが出てしまう犬が、食事の前にベルの音を聞くとよだれが出る。
食事をすると幸せになるお相手が、食事の前に自分と会話すると幸せになる。
そういう応用……「そんな馬鹿な」と思いましたか?
でもこれが意外と効くということがアメリカの心理学者の実験ではっきりとしています。
逆に食事中に嫌な臭いがしたり周りがうるさかったりすると、話している相手の印象まで悪くなることも明らかになっています。
ただあくまで傾向です、二人の食事の時間が楽しくなるかは料理のおいしさだけで決まる訳ではありません。
心理学はあくまでおまけ、基本は自分の腕で勝負しましょう。
古典的条件付けの例②:オペラント教育法
レバーを押したら餌が出る箱の中にネズミを入れた実験があります。
ブザーを鳴らすと、中に入ったネズミがレバーを引き、餌が出る。
これを繰り返すとネズミはブザーが鳴ったらレバーを引くと餌が出ると学習します。
実際にはブザーに関係なくレバーを引けば餌が出るにも関わらず、です。
これをオペラント条件付けといいます。
古典的条件付けとの違いはまず随意運動であること。
よだれは勝手に出ますが、レバーを勝手には引きませんよね。
意識して行う反応ということです。
それから条件付けは行動の後に来ること。
レバーを引いた後に餌が出るからネズミはブザーに反応するようになります。
パブロフの犬では餌を食べる前のベルの音で条件付けされていましたよね。
オペラント教育法
オペラント条件付けは「うまくできたらご褒美をあげる」ことと原理は近いです。
テストで100点をとったらおもちゃを買ってあげる、といったように。
行動Aをとると叱られる、行動Bをとると褒められる。
すると行動Aはしなくなり、行動Bはするようになる。
こうしたオペラント条件付けに基づいた教育をオペラント教育法と言います。
でも「え、当たり前じゃない?」と思いませんでしたか?
それはオペラント教育法という言葉は浸透しなかったものの、その考え方は当たり前に思えるまでに広く深く浸透したという結果です。
オペラント教育法にもいろいろあって、徹底行動主義的な色が強くなるとまた問題点や批判も多くなります。
行動にばかり重点を置きすぎると「それはちょっと」が増えるということですね。
ですがこのオペラント教育法の考え方の問題点や足りないところを補足して進化した考え方は、現代でも世界の教育にいくつも応用されて活かされています。
古典的条件付けの例③:消去を治療に応用
「この音を聞くと嫌な思い出が蘇るんだ」とか、ありませんか?
このような現象の最大級のものをPTSD、通称トラウマと言います。
体が震え寒気がして汗が出て正常な思考ができなくなるなど、身体に表れる異常が大きいもののことです。
これを治療するときにこの古典的条件付けの知識を活かそうという試みがあります。
単純には、嫌な思い出が蘇る音でも何度も聞くうちに慣れて「この音を聞くだけでは思い出のような嫌なことは起こらないんだ」と脳が思ってくれるようになります。
このようにまったく危険がないことを保障しながら、苦手なものと直面させ続けます。
すると脳がだんだんと慣れて不安を連想させなくなります。
これを暴露療法と言います。
ですが直るまで嫌な気持ちになる音を聞き続けるのは苦痛ですよね。
そこでそういった治療の際に極力リラックスできるように体をマッサージしたり、別な音を混ぜたりと、様々な工夫が加えられてきました。
恐怖症や不安障害やPTSDの治療などに今も役立てられています。
まとめ
今回は古典的条件付けの意味や具体例について解説いたしました。
↓本文の内容をまとめると、以下のようなことがポイントとなります。
古典的条件付けのポイント
- 人間や動物は、学習によって反応を変えることができる
- いったん与えられた条件付けは、後から消去したり、強化したりできる
- 古典的条件付けは、実際に恋愛や教育、治療に応用されている
今日、日常生活でメンタルヘルスを崩すことは珍しくありません。
対人不安症や社会不安症が突然起きるなんてことが誰にでも普通になりつつあります。
こうした不安症は、古典的条件付けの応用で治せる可能性がありますので、ぜひ覚えておいてください。
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